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倫理規程の採択

日本高等教育学会倫理規程の採択にいたるまで

2012年6月3日 企画担当理事

1.検討の経緯

本学会における倫理規程の制定に関しては、第53回理事会(2009年5月22日)において、ある理事からなされた、学会として倫理規程を持つべきではないかとの問題提起をふまえ、第55回理事会(2009年9月14日)、第56回理事会(2009年12月14日)において議論を重ね、企画担当理事において検討することとなった。

企画担当理事は、2010年5月24日に会合を持ち、関連学会の倫理規程や日本学術会議の声明「科学者の行動規範」をもとに議論し、その結果を第58回理事会(2010年5月28日)に報告した。議論の結果、倫理規程については、共有すべき価値を記述した倫理綱領を作成すること、そのためのワーキンググループを設置して議論することとした。

ワーキンググループには、企画担当理事のほか、足立寛理事(立教大学)、小川正賢会員(東京理科大学)に参加をもとめて、2010年11月5日、2011年1月28日と2回の検討会を行った。検討の素材としては、日本学術会議の声明、国内学協会の倫理規程、大学団体の教員綱領(末尾に列記した)にくわえて、①人文・社会科学系学会の倫理規程としてアメリカ社会学会(American Sociological Association, Code of Ethics and Policies and Procedures of the ASA Committee on Professional Ethics, 1999)、②高等教育研究者の倫理規程としてアメリカ高等教育学会(Association for Study on Higher Education, Principles of Ethical Conduct, 2003)、③教育者の倫理規程としてアメリカ教育者協会倫理規定(The Association of American Educators, Code of Ethics for Educators)、④実践的研究者の倫理規程としてアメリカの機関研究学会倫理規程(Association for Institutional Research, Code of Ethics for Institutional Research, 2001)などの外国事例を参照した。

以上の検討をもとに、倫理規程の骨子について、以下のように取りまとめた。この間、検討の過程についての記事を学会ニューズレター26号(2011年1月刊)に掲載した。ワーキンググループによる検討の成果として倫理規程案を第63回理事会(同年5月27日)に報告し、学会ウェブサイトに掲載するとともに、ニューズレター27号(同年9月刊)に概要を紹介した。これに対する会員各位の意見をふまえて総会における採択にいたった。

2.規程制定の基本的視点

  1. 本学会は、狭い意味での研究者だけなく、実践家、大学管理運営者など高等教育研究にかかわる関係者によって組織されており、その特性を反映させる。
  2. 学会員として基本的な原則のほか、研究、教育、管理運営など学会員の活動領域における倫理を明確にする。
  3. 本学会はさまざまなキャリアを持つ多様な会員で構成されていることから、学会活動に関する文化規範が共有されているとは言い難い面もある。従って、規程として明文化するだけではなく、プロセスにおいて学会員の共通理解と認識の深化を図る啓蒙活動などを重視する。

3.倫理規程の内容・構成

(1) 倫理規程の範囲

学会発足時の「日本高等教育学会の設立趣旨」(1997年7月19日)及び「日本高等教育学会会則」(2000年5月21日改正)との整合性を図り、学会設立の趣旨を反映させる。

各種の倫理綱領類を参照した結果、専門学会に求められる倫理は根本的には専門性の維持と誠実性(integrity)であるが、後者をさらに展開して、①専門性の維持、②誠実性、③専門家としての責任、④人権への配慮、⑤社会に対する責任を基本原則とする(下記の原則A~Eを参照)ことでほぼ共通しており、本学会も同様の構成を取るべきと思われる。

範囲としては、研究、教育、実践活動とし、それぞれにかかわる守秘義務、利益相反、高等教育への敬意ないし尊重を明確にする。

(2) 倫理規程の前文ないし趣旨

倫理規程には、前文ないし趣旨をおいて意図を明確にする。盛り込むべき内容は、①日本高等教育学会の性格・役割、②専門性向上、③倫理性と規程制定の趣旨が考えられる。

【参 照】

1.アメリカ社会学会倫理規程の基本原則の構成は次の通り。

原則A:専門能力⋯⋯社会学者として高い専門性を維持する
原則B:誠実性⋯⋯社会学者の諸活動(研究、教育、実践⋯⋯)における誠実性
原則C:専門的科学的責任⋯⋯同僚ないし他の社会学者との関係における責任
原則D:人々の権利、尊厳、多様性の尊重⋯⋯研究対象としての社会や人々に対する尊重
原則E:社会的責任⋯⋯自らも構成員である社会に対する責任

2.アメリカ高等教育学会倫理規程の10項目は次の通り。

  • 誠実⋯⋯原則B、C、D
  • 信頼⋯⋯原則C
  • 責任⋯⋯原則B、E
  • 正直と正確⋯⋯原則B
  • 独創性⋯⋯原則A
  • 敬意⋯⋯原則C、D
  • 公平性⋯⋯原則C、D
  • 進歩⋯⋯原則A
  • 顧客や公共の利益への責任⋯⋯原則D、E
  • 利益の競合⋯⋯原則B、E

3.アメリカ教育者協会倫理規程の4原則は次の通り。

原則1:生徒に対する倫理的指導⋯⋯職務遂行の規程。原則Dに相当
原則2:実践と実行に向けた倫理行動⋯⋯原則A、B
原則3:プロフェッショナルの仕事仲間に向けた倫理行動⋯⋯原則C
原則4:親とのコミュニティに向けた倫理行動⋯⋯原則E

4.アメリカ機関研究学会(AIR)倫理規程の章構成は次の通り。

§1能力⋯⋯原則A。ただし業務遂行の確実性を重視
§2職務遂行⋯⋯原則B、D
§3守秘義務⋯⋯職務遂行における特定化された規程、原則D
§4地域社会との関係⋯⋯原則E。所属大学との関係にも言及
§5技術関係⋯⋯原則A、C

【文 献】

  • 日本学術会議「声明 科学者の行動規範について」2006年10月3日
  • 日本高等教育学会「日本高等教育学会の設立趣旨」1997年7月19日
  • 同「日本高等教育学会会則」2000年5月21日
  • 日本私立大学連盟「私立大学教員倫理綱領」2003年3月
  • アメリカ社会学会「倫理規程」1999年
  • アメリカ高等教育学会「倫理規程」2003年
  • アメリカ教育者協会「倫理規程」
  • アメリカ機関研究学会「倫理規程」2001年