学会からのお知らせ

日本学術会議の新会員候補者の任命に関する声明

日本学術会議の新会員候補者の任命に関する声明

日本学術会議の新会員候補者の任命に関する声明

2020年11月11日
日本高等教育学会理事会

はじめに

 日本高等教育学会は、高等教育、科学技術、学術政策を研究対象とする学会として、この度の日本学術会議新会員任命拒否問題について、深い関心と懸念を有せざるを得ない。理事会として検討した結果、次の点について見解を表明する。

1.総理大臣が任命拒否を行うことは、日本学術会議の役割・使命、日本学術会議法の規定と解釈・運用において認められるものではなく、直ちに発令すべきである。

 日本学術会議は、科学者の総意の下に、人類の福祉と学術の進歩に寄与することを使命に設置された日本を代表する学術機関である。それは、独立して職務を遂行し(日本学術会議法3条)、独立性を担保するために、会員は学術会議の選考による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する(法第7条及び第17条)。ここで「推薦に基づいて、・・・任命する」の意味は、推薦を根拠とするという意味であり、推薦なき任命もなければ、推薦に対して明らかに違法と認められる理由がない限り、会員の辞職にも日本学術会議の同意が必要であること(法25条)が示すように、総理大臣は任命拒否ができないのが、立法者意思であり、今までの解釈・運用である。

 このことは国会において手塚康夫政府委員(第98回参議院文教委員会、1983年5月12日)や担当の中曽根康弘国務大臣の「政府が行うのは形式的任命にすぎません。したがって、実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので、政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば、学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております」という説明や、高岡完治内閣官房参事官の「内閣法制局におきます法律案の審査の時におきまして十分その点は詰めた」という説明にも示されている。また、総務省が「総理大臣が任命を拒否することは想定されていない」とする内部文書を2004年に作成していたことが明らかにされている。しかし、内閣府学術会議事務局は2018年11月、内閣法制局と協議の上、総理大臣が推薦を拒め、任命権の裁量があるとの解釈を明確化した文書をまとめた。これについて、政府は一貫して解釈を変更していないと説明している。しかし、総理大臣が実質的な任命権を持つような説明は、明らかに法解釈の変更である。だが、たとえ法解釈の変更としても、上記の様な学術会議の独立性に鑑みると、任命拒否を認めることはできず、直ちに撤回すべきである。

2.任命拒否を行った理由について、可及的速やかに説明すべきである。

 拒否の理由や経緯について、日本学術会議をはじめ、多くの学会などから要望が出されているにもかかわらず、これまで政府から具体的かつ説得的な説明がない。政府から発出された6名の新会員の任命拒否に関する説明は、「総合的・俯瞰的」など抽象的で論拠も示されていない。国民の多くが政府の説明が不十分であると考えていることは各種の世論調査からも明らかである。これについて、総理大臣は、総合的・俯瞰的について、幅広く客観的という意味合いで、特定の大学出身者に偏らず、民間出身者や若手研究者、地方の会員も選任される多様性が重要だとしているが、学術会議では、既に会員の多様化が進められており、今回の任命拒否の説明として説得的ではない。また、「人事であるから説明は控える」という説明は、公務員一般の人事と日本学術会議の独立性に関わる任命問題を混同するもので不適切であると言わざるを得ない。

 もし任命拒否が、候補者の研究や学説を理由とするものなら、研究内容によって不利益を与えるもので学問の自由の侵害と言わざるを得ない。これらの点について、政府は具体的な説明によって説明責任を果たすべきである。

3.任命拒否の問題を解決しないまま、日本学術会議のあり方を検討すべきではない。

 今回の任命拒否をめぐって、政府・自由民主党などでは、学術会議のあり方について、検討に着手している。しかし、任命拒否の問題が未解決のまま、学術会議のあり方を検討することは、論点のすり替えである。さらに、学術会議へ圧力をかけ、信頼関係を損なうもので、学術と国家の健全な関係を構築する上で重大な問題を生じさせる懸念があり、検討そのものが適当ではない。任命拒否問題が解決してから、検討するにふさわしい体制と環境の下で行うべきである。

 そもそも、学術機関のあり方は、学術機関自身も関与して取り組むべき問題であり、専門的かつ国際的な視野に立った検討が求められる。総合科学技術会議専門調査会「日本学術会議の在り方について(最終まとめ)」(2003年2月)は、1年9か月かけ13回の会合を開いて検討された。さらに、内閣府日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議「日本学術会議の今後の展望について」(2015年3月)は、上記「最終まとめ」を踏まえ、9か月かけ7回の会合を開いて検討された。いずれの検討も、科学者・学術関係者が多数含まれ、社会的な課題に対し学術の総合力を発揮する「社会の知の源泉」としての役割を果たすことが目されてきた。また、いずれの報告にも総理大臣の実質的任命権は論点にすらならず、政府からも独立した組織の在り方が提言されている。

 日本学術会議の役割は、直接科学技術政策に結びつく政府審議会と異なり、より広い視野と高い理念に基づくものであり、既に上記のようなあり方の検討がなされてきていることから、その結論を十分に踏まえ、尊重すべきである。さらに、あり方の検討のためには、歴史的には、学術会議の創設とその後の経緯、各国のアカデミー等の類似組織との比較を通じ、エビデンスに基づく客観的な検討が必要である。

4.学術関係者、学術機関、政策関係者、メディア、ジャーナリストなどの関係者は、正しい情報をもとに発信し、歴史的に積み重ねてきた日本学術会議の役割を発展させ、科学と社会の健全な関係を構築するよう努力すべきである。

 一部の政治家や新聞の解説委員やテレビのコメンティターが、事実に基づかず、思い込みで日本学術会議を貶める虚偽の情報発信をSNSや公共的な放送番組で行ったことは、国民の世論形成に大きな責任を持つだけに極めて憂慮すべきことである。世界的に Post-truth politicsの時代と言われ、SNSやメディアを通じて虚偽情報を流し、世論形成を図る手法が増えている。これは「知性ある市民」を主権者と想定する民主主義の危機であり、これら虚偽情報は速やかに訂正されなければならない。歪んだ情報に基づく思い込みではなく、虚偽ではない事実に基づいた議論が行われる環境が何よりも必要である。

 そのためにも、学術団体、大学団体、大学のアカデミアは、今回の問題に対して学術の独立の視点から積極的に虚偽情報をただし、見識を披瀝し、社会をリードすべきである。しかし、多くの大学団体と有力研究大学が、声明を出しているものの、一部の学長や学長経験者や教員などを除き、虚偽の情報に国民がさらされていることを放置していることはきわめて遺憾である。学術の独立と学問の自由を守ることは、大学をはじめとする学術関係者の責任であることを強く自覚し、積極的に役割を果たすべきである。

 他方、任命拒否やそれに対する政府の説明が不十分なため、様々な憶測を呼び、これら関係者の言動に関して忖度や自主規制など行動の萎縮が生じることや、ひいては日本の学術研究や大学の質の低下や存立基盤の弱体化、さらにはアカデミアと社会の分断が生じることを危惧する。

 本学会理事会は、以上のような見解を表明するとともに、今後の事態の推移に対して、学問的見識に基づく検討を進め、社会に貢献したいと考えている。

以上

日本学術会議の新会員候補者の任命に関する声明(PDFファイル)